「賢い医者のかかり方」

本田整形外科クリニック 本田忠


賢い医者のかかり方
専門医にきちんとかかること

現代は医師はすべて、専門分化されています。一昔前までの、何でも見てくれ
る町のお医者さんというのは、残念ながら、だんだん無理な時代になりました。
整形外科に来て、高血圧や心臓の治療をしてくれというのは無理な話しです。
どの科が、どういう疾患を受持ちにしているのか、はっきり把握しておく必要
があります。ちなみに整形外科とは、骨と関節の外科です。骨折や脱臼は、も
とより、捻挫、切傷。各関節の痛みしびれや腫瘍など四肢と背骨のあらゆる病
気を見ます。理学診療科とは、骨折や、脳梗塞や、脊髄損傷などの機能訓練を
行なうということです。ちなみに美容整形は形成外科です。まったく整形外科
とは関係ありません。

むやみに病院を変えないこと
かかりつけ医師を作っておいてください。ひとりの医師に、どんな疾患でも見
て貰うのは感心しません。また医者仲間では、「後から見る医者が名医」とい
う言葉があります。初診時の医者が見逃したものを、1ー2週後に見た医者が
分かることは良くあります。これを称して上記の言葉があるわけです。医師は
神様ではありません。1回見ただけで、わからないことは、時々あります。我
々専門家でも単純な骨折でも見逃すことがあります。期間をおいて、2ー3回
見て、これは何かおかしいと感じたときから、もう一度レントゲンをとるとか、
細かい検査が始まるわけです。

同じ患者さんを、期間をおいて2ー3回みるとわかるわけです(当然症状も進
行しますし)骨折でも期間がたてば、必ず、骨が出来てきて、はじめて折れた
ということが分かるわけです。これは特に、解剖学的な理由から子供の骨折に
多いのです。いずれにしても、些細な理由で、医者を次々変えるのは、あまり
おすすめできません。何でも相談することです。門をたたかないと、何も出て
きません。

また名医願望もおかしいのです。医療は、科学ですから、毎日大量に論文は、
生まれていて、日本全国で医療技術は平均化してきています。昔ならいざ知ら
ず、この情報化時代に名医などと言う概念は古くさいだけです。要は正確な診
断をつけ、評価の定まった的確な治療法をしていくだけなのです。残念ながら
夢のような奇跡的な治療法と言うのは存在しません。慢性の病気は長期にかか
るわけです。遠くの名医に1回だけかかる事はほとんど意味がありませんし、
通いきれるものではない。ご自分の近くの通院しやすいところの、先生にきち
んと相談することです。

整形外科疾患の治療体系

●慢性疾患とは?
整形外科疾患は慢性疾患が多いのです。慢性疾患=なおりづらいということです。
最近流行りの言葉に「生活習慣病」という概念があります。日常生活そのもの
のなかに、病気の原因があるわけです。ということは日常生活そのものを変え
ていかないと、なおらないということになります。治療には症状を取るのが最
優先する対症療法と、根治療法があります。両方組み合わせて行う事です。対
症療法を軽視するのもいけませんし、痛みが取れればよいやと言うのも感心し
ません。

●まず様子を見ましょう
 最初に受診された患者さんから「なおりますか?」といきなり聞かれたとき
に、医師から良く出る言葉です。どんな疾患でも治療法は数種類あります。治
療方法はまず、患者さんにとって、ある程度効果があり、かつ簡単な方法から
行います。その後の経過をみながらなおらない方には、別なより効果のある
(当然危険もある程度ともなう)治療に変えていくわけです。その際、各種治
療をステップ毎に行いながら、「評価」をして、なおらない方のみに治療法を
変えていくわけです。初めからすべての治療を行う事はありません。この評価
期間が「様子を見る」と言うことです。従って、「様子を見る」ということを
より正確に言えば、「とりあえず簡単な治療からはじめます。それでなおらな
ければ、別な治療に移りましょう」従って、いきなり「なおりますか」と聞か
れれば、「なおる方もいるし。なおらない方もいる。それは経過を見ないとな
んとも言えません」ということです。

正確な診断の上に,はじめて正確な治療が行われる
整形外科疾患の治療の重要な柱は、その疾患にあった総合的な治療計画を組む
ことです

1)まず正確な診断です
 病気がわからないのに治療はできません。また、ここをいい加減に行うと、
非常に危険です。たとえば、癌で脊椎が融けているところに、不用意に、力を
加えれば折れます。そうなれば、麻痺が来ることが多いのです。幸い整形外科
疾患は、「医師の診察」と「レントゲン」で、ほぼ診断がつきます。

精密検査とは?
 必要なら「細かい検査」を行います。ただ検査も副作用の少ないものから、
多いものまで種々あります。いたずらに数多くの検査をするのも感心しません。
要は「必要最小限の」検査で、どれだけ「正確に」病態を捉え切れるかという
のが、問われるわけです。

特殊な場合を除いて、初診でいきなり詳しい検査、たとえばMRIを行う事は、
あまりありません。検査は必要最小限であるべきです。経過中になおらないと
か、症状がおかしいとか、医師の判断で、明らかにおかしいと感じたときのみ、
行うべきものです。行えば行っただけの情報は得られますが、行ったことによ
り、治療法が変わるえるものが「意義ある」検査です。治療法が変わらないと
予想されるときは、精査はしません。経過を見るためだけに3つも4つも検査
をするのはやりすぎです。

2)各種治療の性格
○薬物治療
 これは非常に重要です。医師は患者さんへの苦痛のない、できるだけ無害な
方法からステップを踏んで治療するわけです。一般的にはまず薬物治療からは
じめることが多いのです。なおらなければ次のステップへ移るわけです。

 痛い間はきちんとお薬を決められたとおりにきちんとのんでください。副作
用が出たらきちんと先生にお伝えください。その場合は当然のむ必要はありま
せん。困るパターンは、痛いのに、整形外科の薬は強いからと「適当に」飲ん
で、次の受診日に 病気が直らないと訴える方です。薬物治療が効果がなけれ
ば、より強力な治療に移ることになります。より強力な治療というのは、同時
により安全性は落ちるわけです。お薬でなおるのが、一番患者さんにとって楽
なのです。お医者さんが良く言う「様子を見ましょう」とは、この時期に良く
使います。対症療法です。

○理学療法
1)物理療法:温熱療法、牽引、鍼灸など
  これは補助療法です。一定の効果はあります。病気の起こり始め(急性期)
には、かえって痛くなることが多いのです。したがって初期には使いづらい方
法です。ある程度痛みが取れてから行うと、それなりの効果があります。対症
療法です。

2)運動療法:各筋肉の筋力増強訓練
 非常に大切です。運動には2種類あります。いわゆる筋肉を伸ばす運動(ス
トレッチング)と、筋力増強訓練です。これは両方行わないと効果はありませ
ん。たとえば肩凝りの方はよく首を回しますが、それはストレッチングであり、
それだけでは不十分です。頚から背部にかけての筋力増強訓練が必要です。

2-1)整形外科慢性疾患は肥満と運動不足と老化が最大の原因であることが
多い整形外科の慢性疾患は、ほとんど生活習慣病です。たとえば、中年の女性
で肥満があって、よく歩く方や、長時間座っている方は、肩凝りや、腰か膝が
痛くなります。これはある意味で当然です。なぜなら、10kg重い方は、そ
の数倍の負担を各関節にかけることになるわけですから。股関節なら安静立位
時に体重の3倍。膝関節なら5倍の力がかかっています。また関節と言うのは
「骨と骨の連結部分」ですが、関節は「骨と筋肉」でできています。たとえば
膝関節は主に骨と主に大腿四頭筋(大腿前面の筋肉全部)です。老齢で膝関節
の軟骨がすり減った方は、骨と骨の連結部分が壊れたわけですから、関節機能
を維持するためには骨以外の構成要素である、筋肉を鍛えることが必要になり
ます。お辞儀をしただけで、腰へは体重の5倍の力がかかります。腰痛の方は、
腹筋と背筋を鍛えないと上半身を支えきれません。従って痛みも取れないと言
うことになります。

 従って注意しなくてはいけないことは、薬物療法や物理療法はいわば対症療
法であって、本当になおすためには、整形外科疾患の場合は、生活習慣をなお
すこと。特に肥満や、運動不足を解消して、犯された関節の周囲の筋群を鍛え
ることが、必須であるということです。これが根治療法になります。またその
犯された「関節の周囲の筋群」を鍛えることが大切です。

たとえば膝が悪い方は、「膝に負担をかけてはいけない」のに、「運動しなさ
い」というと、「歩くこと」だと誤解されます。膝の四頭筋を鍛え、極力歩か
ないことが大切です。首が痛い方は頚から背部の筋群を、腰痛の方は腹筋を鍛
えることが大切です。

3)日常生活の注意:各関節へかかる負担を減らすこと
 また関節への負担も肢位によってもかなり異なりますから、各関節へ負担の
かからない肢位を覚えることも大切です。たとえば腰痛は、お辞儀する作業は
避けるべきです。これだけで腰への負担はかなり違ってきます。

4)各種ブロック
 これは非常に効果はあるが、患者さんにとっては針を刺すので、痛みがある。
感染や、その他の危険性があるので、使用は、他の方法でなおらない人に限る。

5)各種装具類
  これも効果はあるが、不便なので、使用は他の方法でなおらない人に限る。
6)手術
  手術はしかたなく行うものです。保存的治療をきちんと行ってそれで直ら
ない方に、はじめて医師が総合的に判断して、やむをえず行いましょうと勧め
るわけです。

整形外科は各種治療を駆使し体系的治療を行う
 上記で述べた各種治療の体系的な使用によって、患者さんを直すわけです
 疾患によって、その治療順序はほぼ決まっています。
 1)まず必要最小限の検査による正確な診断を行い、
 2)疾患にあった、治療体系を選択
 3)ステップバイステップで次の治療へ移る
  上記の治療方法を次々試しながら、なおらない方は、何度も診察しなおし
ながら、次のより強力な、侵襲の高い、次のステップへ移るのです。どの疾患
でも、最終ステップは、当然手術です。

 整形外科慢性疾患は、肩凝りや腰痛、膝痛にしても、慢性疾患です。原因は、
加齢変化や、運動不足や、肥満が原因であることが多い。従って上記の対症療
法を行いながら、肥満の解消、各罹患関節の周囲の筋群の筋力増強訓練を行い、
根気よく受診して、医師に相談しながら各ステップを踏んでいくことです。

 1ー2回で終わることは稀なのです。原因が特に筋力不足が多いわけですか
ら、筋力は訓練してもそうつくものではありません。半年以上かかる方が多い。
対症療法を受けながら、ご自分で筋力増強訓練を続けることです。もちろん、
年齢や、仕事、忙しさなどで、ステップを飛ばすことも多い。しかし、それは
あなたと医師の相談の上で行うものです。

○ドクターショッピングを避ける
 1ー2回の診察で、なおらないと決めつけて、次々と病院を変えるのは、あ
まり賢い方法とは言えません。病気の治療体系は病院をかえたからといって、
そうかわるものではありません。従って、病院を変える人は、なんども最初か
ら、同じことを繰り返すことになります。お金の無駄遣いです。
 なおらなければ、何度でもかかりつけの医師に相談することです。相談しな
ければ、医師も分からないことが多いのです。

○正しい病気の知識を入れる
 また大切なことは、ご自分の努力が必要であると言うことです。受け身の姿
勢で、何ら努力をせずに、薬物治療や、物理療法をうけ、ドクターショッピン
グ(医師を次々に変わること)をし、健康グッズを買いあさるだけでは、事態
は改善されません。

整形外科慢性疾患の原因は、老化や、肥満、運動不足が原因であることが多い
わけです

 病態を正確に把握し、筋力を鍛え、生活そのものを改善する必要があるわけ
です。

 どうか賢い医者へのかかり方を覚えてください。
 理解しないのは、特に慢性疾患をもっている貴方にとっての不幸です。


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