「耳鳴り」

村上耳鼻咽喉科医院 村上  裕


Q:1 32才の女性です。仕事は事務職ですが、1週間前に朝起きると左耳が
つまる感じがし、注意すると同じ耳にキーンという耳鳴りもします。
特に風邪気味でもなかったので自然によくなると思い現在まで放置しておりま
したが、症状は変わりません。
耳鳴りの原因は何なのでしょうか。また、治療を受けることにより治るもので
しょうか。

A:1 耳鳴りは、外で音がしていないのに耳の奥や頭の中でキーンとかいう音
がする状態です。
日常生活の中でたいていの方は一度は耳鳴りを経験していると思いますが、こ
の定義の様に、一般的に言われているほとんどの耳鳴りは、自分だけが感じる
ことができるもので、これを自覚的耳鳴りと言います。

これに対し自分だけでなく他の人も聞くことのできる耳鳴りもあり、これを他
覚的耳鳴りと呼んでいます。

この他覚的耳鳴りの原因は、脳動脈瘤や動静脈瘻あるいは心臓弁膜症といった
ものによる血流異常によって起こるものや、咽や耳の近くの筋肉が痙攣するこ
とにより発生するものなどがあげられます。この他覚的耳鳴りに対し、自覚的
耳鳴りの原因の多くは聴覚伝導系すなわち空気の振動が音として感じるまでの
経路のどこかに何らかの異常があって起こると言われています。

Q:2 それでは具体的にどの様な原因で耳鳴りは起こるのでしょうか。

A:2 現実には耳鳴りの原因はわからない場合も多いのですが、耳鳴りのある
人に聴力検査をしてみると80%以上に難聴があることがわかっております。
従って一般に耳鳴りは、難聴に伴って発生する症状と言えます。

さらに、この耳鳴りのある人の難聴の原因を調べてみると、感音難聴といって
内耳以後の部分の障害による難聴が圧倒的に多い様です。耳の構造は入口より
鼓膜までを外耳、鼓膜の中の空間を中耳、そのさらに奥の神経の末端が渦巻き
状になったところを内耳と呼び、そこから聴神経となって脳に至りますから、
感音難聴は内耳から脳までの部分の障害ということになります。

ですから、感音難聴の原因が耳鳴りの原因の大部分であると言ってもよいと思
います。

今回の御質問の場合は、特別な誘因がなく1週間前に突然耳鳴りが起きていま
すから、恐らく突発性難聴と言う病気だと思います。この方に聴力検査をして
みると恐らく左耳に難聴が認められると思います。もちろんこの難聴は感音難
聴に属します。

この病気の特徴は、自覚症状として、耳がつまる等の症状が多くみられますが、
滲出性中耳炎とはまったく別の機序で発症するものです。ちなみに感音難聴に
対し、外耳や中耳の障害によって起こる難聴を伝音難聴と言います。滲出性中
耳炎は伝音難聴の代表的な疾患です。突発性難聴の予後ですが、発症後1週間
以内に治療を開始することにより難聴や耳鳴りはかなりの率で改善しますから、
安心して良いと思います。

突発性難聴の他に、感音難聴の原因はたくさんありますが、その中で特に知っ
ておいてもらいたいものとして、薬剤性難聴があります。薬物の中にはその副
作用として難聴や耳鳴りが出現することがあるので、使用する際には充分に医
師の説明を受ける必要があります。

今一つは音響性難聴です。いわゆる騒音職場での長期間に渡る作業後に生ずる
耳鳴りばかりでなく、コンサートやウォークマンなどで音楽を聴取した際に、
キーンとかシ?ンとか言う耳鳴りが発生することがあります。

Q:3 耳鳴りには色々な音があると思いますが、この音の違いは何か意味が
あるのでしょうか。

A:3 例えば、低い耳鳴りのある人に聴力検査をすると低周波数の難聴があ
ったり高い音の耳鳴りでは高い周波数の難聴があると言った様に、耳鳴りの音
色と難聴の型は多少関係がある様ですが、難聴の原因や障害部位とはあまり関
係がないようです。

Q:4 耳鳴りの大きさが大きくなるということは難聴が進行するということな
のでしょうか。

A:4 いわゆる聾の人を除けば、難聴の程度が強い程、耳鳴りが合併する率も
高くなり、難聴の程度が強いほど耳鳴りの大きさも大きくなる傾向がある
様です。

Q:5 現在耳鳴りの治療には、どの様なものがありますか。

A:5 原因となっている病気の治療を受けることはもちろんですが、一般によ
くみられる感音難聴に合併する耳鳴りに対しては、まず薬物療法として、ビタ
ミン剤、代謝賦活剤、血流改善剤、精神安定剤、漢方薬などを組み合わせて使
用します。時に局所麻酔剤を中耳腔に注入したり、静脈内注射をしたりする方
法もある様です。

次に、補聴器やマスカーという器械を使用して、耳鳴りのする耳にわざと雑音
を聞かせて、耳鳴りをおおい隠してしまう方法もあります。最も大切な事は、
耳鳴りを長期間煩っている方の中には、不眠やイライラ感で精神的にかなりま
いっている人もいますので、まず種々の検査を受けて、その結果自分の耳鳴り
が生命に影響する様な原因で起きているものではないことを確認した上で、精
神神経的な治療や自律神経の訓練を受けることです。


Back