「鼻出血」

村上耳鼻咽喉科医院 村上 裕


Q:小学校5年生の息子についてですが、現在アレルギー性鼻炎の診断で週一
度の通院治療をしております。
最近、左の鼻より鼻血が出る様になり、授業に支障を来たしております。
鼻血とアレルギー性鼻炎との関係はあるのでしょうか、また鼻血の際の応急処置
などを教えて下さい。

A:鼻腔はその奥行きが意外に深く、構造も単純な空間ではなく鼻甲介という粘
膜のひだで、幾つかの室に仕切られております。こうした鼻腔を構成している粘
膜に分布している血管は豊富で、どの血管が損傷を受けても鼻出血という症状が
出現するのですが、鼻出血の好発部位は、鼻入口部より5ミリ程深部の鼻中隔に分
布する血管網で、ここをキーゼルバッハ部位と呼んでおります。

ちなみに鼻出血全体の90%以上は、このキーゼルバッハ部位からの出血と言わ
れておりますが、動脈性の出血であることが特徴です。そこで鼻出血の際に各医
療機関を受診する以前に行う応急処置として、

1.まず鼻出血が何時頃に、鼻腔の左右どちら側から出たかを記憶しておくこと。

2.出血の際、鼻入口部からすぐ出血してきたか、あるいは血液が鼻の奥を回っ
て咽頭に降りてきたかどうか記憶しておくこと。これによって出血点がキーゼル
バッハ部位かあるいはそれ以外の深部からかをおおよそ推測できるからです。

3.止血処置ですが、慌てずに身近にあるティシュペーパーや綿・ガーゼ・ハン
カチといった柔らかい素材のものを出血していた側の鼻腔に挿入し、外側から鼻
中隔へ向かって軽く圧迫し続けて下さい。

4.止血処置の際の姿勢ですが、よく血液で顔や衣服が汚れることを心配する余
りつい上を向いてしまう方が多いのですが、この様な姿勢では返って血液が咽喉
に下りてきて、それを飲み込んでしまうことにより嘔気・嘔吐といった消化器症
状が出現します。そればかりではなく、いざ医療機関を受診したときに実際はど
のぐらい出血していたのか解からないということになってしまうので、むしろ軽
く下を向くかあるいは出血している側を下にして側臥位をとって下さい。そして、
もし血液が咽喉に降りてきた時は、口から出す様にして下さい。

5.止血が仲々うまくいかない時は、あまり時間をおかずに専門医を受診して下
さい。その際は、もし現在他に治療を受けている疾患や服用している薬があった
場合には、担当医師に伝えられる様にして下さい。

Q:鼻出血の原因はどの様なものがあげられますか。

A:鼻出血の原因は全身的なものと局所的なものの2つに大別されます。全身的
原因としては、例えば血友病や白血病などの様に血液の凝固系に問題がある疾患
や、オスラー病といって血管の異常によって出血し易くなることがあります。

また脳血管障害や心疾患の患者さんの場合長期間に渡り抗凝固剤の投与を受けて
いることがあり、その薬剤の影響により鼻血が出やすくなったりします。

生理的な変化として、女性の場合月経時や妊娠後期に伴う出血があげられます。
局所的原因としては、まず気候の変化があげられます。特に今頃の様に気温が下
がり空気が乾燥する時期は鼻血が出易くなります。

子供さんの場合、鼻腔に小さなオモチャ・豆といった物を入れることにより、鼻
粘膜がただれ、鼻血になることがあります。特に最近問題になっている異物にボ
タン型アルカリ電池があります。これは、電池が摘出された後も鼻粘膜のびらん
が進行し、鼻中隔の穿孔を引き起こすことがあるので注意が必要です。

また、鼻副鼻腔の炎症や腫瘍も鼻出血の原因となります。まず、炎症ですが鼻炎
・副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎などがあると、鼻粘膜にびらんを生じたり、鼻を
かんだり指でいじるといった機械的刺激で出血することがあります。

腫瘍については鼻ポリープや若年性鼻咽腔血管線維腫といった良性腫瘍の他に上
顎癌に代表される悪性腫瘍の初発症状の一つとして鼻出血がみられることがあり
ます。
交通事故などによる顔面外傷に伴う鼻出血の場合は、骨折を伴っていたり、また
その骨折が頭蓋底に至りそこから髄液漏を併発している場合もあり、2次感染の
対策など注意が必要です。

Q:鼻出血で患者さんが医療機関を受診された時、医療機関はどの様な対処をさ
れますか。

A:出血の原因、患者さんの全身状態、出血部位を正しく把握する必要がありま
す。そこで、患者さんの意識状態・顔色・呼吸状態・脈拍などをチェクした上で、
輸液や輸血の必要性を考慮します。その上で出血点がキーゼルバッハ部位の様な
鼻入口部に近い所では、硝酸銀やトリクロール酢酸などの薬物で腐食させたり、
単極あるいは双極止血器を用い電気凝固を行います。

出血点がより奥深い所では、吸収性ゼラチン材や抗生物質入りの軟膏を塗布した
ガーゼで圧迫止血したり、ベロックタンポンや止血バルーンを使用して血液の誤
嚥を防ぎます。

重篤な出血に対しては、その中枢側の血管を結紮しなければならない場合もあり
ます。

Q:鼻出血の原因にアレルギー性鼻炎があげられておりましたが、薬を服用して
も仲々症状が改善しない方がいる様です。何かよい治療法はありますか。

A:スギ花粉症に代表される季節性アレルギーに対してハウスダストやダニなど
による通年性アレルギー患者数の増加や、患者さんの低齢化が問題になっており
ます。

実際抗アレルギー剤などの薬物療法や、減感作療法での効果が上がっていない方
がいることも事実です。

これらに対し、最近炭酸ガスなどを使用したレーザー治療が行われ、特に鼻閉に
対し有効と言われておりますが、どの治療法も一長一短ですから自分に合った治
療法を選択すべきです。


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