「メタボリックシンドローム予防法」


鈴木内科医院 鈴木 和夫


【メタボリックシンドロームとは】
 過栄養・運動不足という生活習慣が引き起こす内臓脂肪蓄積を上流因子とし
て,高血圧,脂質代謝異常,耐糖能異常を伴う動脈硬化を発症しやすい病態で
ある。心血管系疾患(心臓や脳の血管で生じる病気)の危険度が高いので予防
や治療が必要である。

【アディポネクチン】
 脂肪組織は単なるエネルギーの貯蔵臓器ではなく生体内最大の内分泌臓器で
ある。アディポネクチンは動脈硬化進展における全ての過程を抑制する分子で
あるが,内臓脂肪蓄積に伴い血中濃度が低下する。低アディポネクチン血症が
1インスリン抵抗性など各危険因子の原因になる,2直接血管に作用して心血
管病に関与する,等により動脈硬化が進展する。

【診断基準のポイント】
1)現時点では腹部肥満が必須項目である。腹部肥満を伴わない場合は,他の
危険因子が集積してもメタボリックシンドロームと診断しない。むろん腹部肥
満を伴わずに危険因子が集積している患者がいることも事実である。
2)ウエスト周囲径の基準値については見直しの動きもあり,今後の課題であ
る。また測定条件によって値は不安定である。
3)LDLコレステロール(LDLC)が含まれないのは独立した危険因子だからであ
る。LDLCに次ぐ高リスク群を選定して治療することが眼目である。もちろん高
LDLC血症とメタボリックシンドロームの合併はあり得る。

【治療】
 治療の第一目標は食事療法や運動療法などのライフスタイル改善によって内
臓脂肪(実地医療ではウエスト周囲径)を減少させることが中心となる。ウエ
スト周囲径1cmが体重1kgに相当する。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて代謝上,
活発な組織であり,減量によって減りやすい。
 標準体重やウエスト周囲径の基準値以下にならなければ意味がないというわ
けでなく,体重,ウエスト周囲径の5%程度の低下により,メタボリックシン
ドローム危険因子の改善が得られる。
1)食事療法
 基本は腹8分目,規則正しく食事すること,塩分を控えること,よく噛むこ
となど当たり前のことだが続けるのが難しい。
2)運動療法
 街中を無料のジムと心得て日常生活に運動を取り入れる。歩く,階段を使う
などが手頃である。

【問題点】
1)患者側
1肥満の患者には太る理由がある(固有のライフスタイル,食行動の「ずれ」
や「くせ」など)。
2症状がないので病識が得られない。
3患者は知識の増加で満足しがちであり,それが必ずしも行動変容につながら
ない。
4一時的にがんばっても続けることが難しい。
2)医療側
 1患者の日常生活の全てには介入できない。
 2医療側も教育や指導で満足しがちである。

【私からの提案】
1)毎日の体重測定を習慣づけ,現実を直視する。ベースになる体重は起床直
後のものである。
2)知識だけでなく一つでも実行する。自分の生活に合わせてできることから
食事,運動の工夫をする。
3)最初は目標を小さく設定する。
4)目に見える数字の改善などを楽しんで長続きさせる。奮闘努力では長続き
しない。