「糖尿病のためになる話」


八戸市立市民病院 内分泌糖尿病科 葛西 伸彦



 糖尿病患者は増加の一途をたどり,その背景には環境因子(食の欧米化や肥
満など)の変化が大きく関与していると思われます。もともと日本人は血糖を
調節するインスリンの働きが欧米人の約2分の1といわれており,少しの肥満
が糖尿病に結びついたり,痩せていても体質的にインスリンの働きが弱い方は
糖尿病を発症してしまいます。糖尿病はきちんと治療をしなければ糖尿病特有
の合併症が出現し,糖尿病網膜症で視力低下をきたしたり,糖尿病腎症では進
行すれば人工透析を余儀なくされ,また神経障害が進行すると下肢の感覚障害
から足壊疽に陥ったり非常に困ったことになります。

 糖尿病の原因は単純に甘いもののとりすぎや肥満だけではありません。もと
は血糖を調整するインスリンの作用不足によると言えます。インスリンそのも
のが発見されたのが1921年ですから,そんなに遠い昔の話ではありません。そ
の後インスリンの注射薬をはじめ,さまざまな糖尿病の薬が開発され現在に至
っています。

 糖尿病は血糖値が空腹時で126mg/dl,食後で200mg/dlを超えると診断されま
す。過去約1〜2か月間の血糖の平均の目安をHbA1cといい,糖尿病の診断お
よび治療の指標として用いられています。糖尿病の合併症を予防するには7%
未満を達成できることが求められています。

 糖尿病の治療は食事療法と運動療法(生活習慣の改善)が基本になりますが,
すべての方がそれだけで良好な血糖コントロールが得られるわけではありませ
ん。そのときに様々な薬の力を借りることになります。糖尿病の薬には内服薬
と注射薬に大きく分けられますが,各患者さんの病態や生活スタイルに応じて
お薬を選択します。「内服薬は軽症の人に用い,インスリンは重症の人に用い
る」と考えている方も多いかもしれませんが,決してそうではありません。近
年も新しい糖尿病薬が開発発売され,多くの患者さんに用いられています。

 糖尿病の治療の目標は食事療法に代表されるように,決して我慢することで
はありません。人から言われたからではなく,自分の体は自分で守る気持ちで,
正しい知識を持って上手に糖尿病と付き合いたいものです。糖尿病の合併症に
苦しむことなく,糖尿病があっても楽しく長生きできるようにしましょう。

会場からの質問
Q インスリン注射は多すぎると体に何か悪いことがありますか?
A インスリン治療をしている場合,食事に対してインスリンの量が多すぎた
りすると低血糖という副作用が起きることがあります。低血糖は避けたいもの
です。

 また,たくさん食べて,たくさんインスリンを注射した場合は仮に血糖がよ
くなったとしても,体重の増加につながりますので,体にとっては良くないこ
とだと思います。