「見逃していませんかこころの疲れ」


八戸マナクリニック 岡田 元



 現在の日本社会は変化が激しくストレスが多いため,心や体の変調を感じる
方も多くなっています。また心の病を持つ方が多くなっています。心の病の中
でも,うつ病や認知症は頻度の高い病気です。今日は,うつ病や認知症につい
てお話をして参りたいと思います。病気についてよく知り,ストレスに対して
どう対処していけば良いのかを少しでも知っていただければ幸いです。
 ストレスとは何でしょうか。
 物理的(暑さ寒さ等),化学的(お酒などの物質),生物学的(病原体等)
ストレスはもちろんあります。
 その他に腹が立つ,怖さを感じるなど心理的なストレスもあります。
 これらのストレスがかかっても,気分転換や楽しみを見つけることができれ
ば充分に解消でき,病的な状態にまでならずにすむ事が多いものです。
 ただ,あまりに強いストレスがかかると,心や体の不調となることがありま
す。
 その一つがうつ病です。

1.うつ病について
 うつ病は,適切な相談をうけられる場所があり,かかっても治療で自殺とい
う最悪の事態をさけられることが多く,改善を期待できる病気です。
 一生に一回うつ病にかかる方がおよそ10人に1人というありふれた病気です。
 うつ病の原因ははっきり分かりません。遺伝もほぼ無関係です。しかし誰に
でも起こる様な環境の変化がひきがねとなる事が多いのです。
 環境が変わるだけでも緊張しますし,ストレスを感じますね。
 うつ病の主な症状は@気分が落ち込む A今まで好きだったものにも興味が
わかなくなる等で,これらが概ね2週間以上続き,社会生活に差しつかえる場
合うつ病と定義しています。心の病ですが,体の症状も多くでるのが特徴です。
 これらの特徴を文字で見たり聞いたりしても,あまりたいしたことがないと
感じるかもしれません。しかし最近では,ご自分の体験を手記として著される
方もいらっしゃいます。そのような書籍をご覧になっても,実はうつ病の症状
が見かけと違い大変な体験だと分かるかもしれません。
 そして知っておいていただきたいのは,これらの症状そのものは,うつ病で
はない人が感じるのと性質がとても似ています。違いはその状態がとても長く
つづき,いつまでたっても良くならないのがうつ病です。決して怠けているか
らではありません。
 かかりやすさは女性は男性の約2倍です。その一方,男性の場合,自殺に至
る可能性は女性より高い事も分かっています。いずれもその理由は分かってい
ません。

1-a.うつ病だと思ったら
 うつ病をこじらせると治療しても慢性化したり,症状が改善するまでに時間
がかかります。
 ご家族や職場なら上司,産業保健スタッフ等に相談してみましょう。地域で
は青森県八戸地域産業保健センター,八戸市庁の健康増進課,八戸保健所等で
相談を受けられます。

1-b.うつ病の治療について
 うつ病の治療には3つの柱が有ります。
 a.休養 b.お薬での治療 c.精神療法(主に外来での短時間の医師から
のアドバイス)です。良くなってきた段階で,家庭で通常の生活をする為,休
職されていれば復職にむけてリハビリテーションを行います。
 早めに治療をすると早く良くなりやすいので,症状らしいものがあったら早
めに周りの方に相談し医療機関を受診してみましょう。

2.認知症について
 最近は高齢化社会のため,認知症になる方が増えています。一番多いのはア
ルツハイマー型認知症と言われるものですが,治療をすると治る認知症もあり
ます。
 認知症の方が増えているのは,年齢を重ねるにつれ認知症になる可能性が高
くなるからです。高齢化社会だから認知症が増えていると考えられます。
 また,女性が男性の2倍かかり易いとわかっていますが,これは女性の平均
寿命が長いことと関係があるようです。年齢が上がるとアルツハイマー型認知
症になる可能性が高くなりますからね。

2-a.認知症の症状について
 一番分かり易いのは物忘れですが,認知症に典型的な物忘れは「出来事その
ものを忘れてしまう」物忘れです。
 それはご本人にとって,いつもと違った不安なことが起こっているのです。
 このため,うつ病に見られる気分の落ち込みや不安感,あせり等がよくあり
ます。専門医でもこれらの症状がうつ病なのか,認知症なのか区別が付きにく
いことがあり,治療をしながら様子を見ていくことがよくあります。
 物忘れがあっても,それを隠そうとすることがあります。人のせいにしよう
とするような妄想がおこる事もあります。
 自分が物忘れするなんて到底信じられませんからね。
 どうも変だと感じたら,うつ病と同様に医療機関や1-aに記載した市庁,保
健所等に相談してみましょう。

2-b.認知症の予防について
 認知症は,認知症の原因となる病気を取り除く事が一番です。ただそれがで
きるものばかりではありません。
 認知症の中で一番多いアルツハイマー型認知症は,脳の神経細胞が変化し減
少することで起きることがわかっています。
 予防は「糖尿病・高血圧・高脂血症の予防,望ましい体重の維持,健康的な
食生活,運動習慣,禁煙」などの体調管理と「社会交流と知的な活動」,うつ
病にかかっている場合はその治療が有効だと言われています。
 現在の所,認知症にならないための治療は世界中で研究されていますが,実
用の段階ではありません。

2-c.認知症の治療について
 認知症の原因によっては,原因を取り除くと物忘れが改善するかもしれませ
ん。
 アルツハイマー型認知症では,物忘れの進行を薬剤によってくい止めること
ができる可能性があります。
 また,妄想はお薬の効果がでやすく,物忘れがあっても生活しやすくなりま
す。

3.家族や仲間の変化へどう対処すればいいか。
 身近な方にうつ病や認知症の方がいらっしゃったら,その病気について知識
を得ることが大切です。1-aに記載した公的な機関に相談してもいいでしょう。
 そして,もっと大切なのは相手の気持ちをよく知ることです。
 悩んでいる人を見かけたら,相手の話を「判断しないで『聴』く」ことが大
切です。これは口を挟まないで聴くことで,誰でもできそうに見えますが,余
計な一言がはいってしまいがちです。
 一方,身近な方の様子がいつもと違う,何か変だと思った時には,ひとりで
抱え込まないことが大切です。
 行政,主治医,介護保険等を上手に利用して共倒れしないようにしましょう。