「今日から始める糖尿病の予防と対策のポイント・運動療法を含めて」


向井田胃腸科内科医院 向井田 英明



 わが国の歴史上最古の糖尿病患者
 藤原道長(966〜1027,平安時代中期)が,日本における記録上最古の糖尿病
患者といわれている。道長は源氏物語の主人公のモデルの一人ともいわれ,自
分の娘を天皇の妻とし,天皇と親戚関係となって権力を得て栄華を極めた。
「この世をばわが世とぞ思う望月の かけたることもなしと思へば」(この世
は自分のためにあるようなものだが,満月のようになにも足りないものはない)
という有名な歌がある。御堂関白記や小右記の記載によれば,1016年(51歳)
:3月から頻りに水を飲む。特に最近は昼夜多く飲み,口が乾いて力がない。
ただし,食事は通例から減らない。1019年:而るに,目は尚も見えず,二三尺
の相ひ去る人の顔は見えず,只に手を取る物許は之を見る。1027年(62歳):
12月2日背中に大きな腫れ物ができ,12月3日意識不明,12月4日死亡という
経過である。まさに糖尿病の合併症による最悪の結果である。

 平成24年度の国民健康・栄養調査
 平成25年12月に厚生労働省より平成24年度の糖尿病の調査結果が発表された。
糖尿病に関しては平成9年より5年ごとに調査が行われている。糖尿病が強く
疑われる者は平成9年690万人,平成14年740万人,平成19年890万人,平成24
年950万人であったが,糖尿病の可能性を否定できない者はそれぞれ680万人,
880万人,1,320万人,1,100万人と今回はじめて減少した。これは平成20年よ
りはじまった特定健診・特定指導の成果ではと考えられている。

 糖尿病の予防
 DPP(Diabetes Prevention Program)という臨床研究が2002年に報告された。
25歳以上,BMI 25以上の耐糖能異常者3,234名を生活習慣改善群(5%の減量
と1日30分のウォーキング),メトホルミン群(850〜1,700mg/日),プラセ
ボ群の3群に割り付け1996年より平均2.8年経過をみた。糖尿病累積発症率は
プラセボ群29%,メトホルミン群22%,生活習慣改善群14%であり,生活習慣
の改善で糖尿病発症が約50%減少した。糖尿病発症の原因は遺伝因子+環境因
子と言われている。食べ過ぎ,運動不足,ストレス,肥満などの環境因子を改
善することで,ある程度は糖尿病発症を防ぐことができると考えられる。

 運動療法
 「2本の足は2人の医者」「上医は薬箱に毬を入れ」などのように,古くか
ら運動の重要性は指摘されていた。運動療法の基本は「いつでも」「どこでも」
「ひとりでも」であり,ウォーキングが適していると考えている。ウォーキン
グの効果は,1)短期効果:ブドウ糖,脂肪酸の利用が促進され血糖値が改善 
2)長期的効果:インスリンの働きがよくなる 3)エネルギー消費が増えるため
減量や腹やせ効果がある 4)基礎代謝量を増やす 5)高血圧,脂質異常症を改
善する 6)血管が若返る 7)心肺機能がアップする 8)肌が若返るなどである。
 ウォーキングの一つの方法として「インターバル速歩」を紹介する。現在,
日本糖尿病協会の月刊誌「さかえ」に信州大学の能勢博教授が連載している。
息が弾み動悸がする程度の速歩を3分間ゆっくり歩きを3分間,このセットを
1日5回以上週4回以上繰り返す。歩き方の基本は 1)目線は25m先のやや斜
め下をみる 2)上体は肩の力を抜いてリラックス 3)姿勢は背中を伸ばして胸
を張る 4)肘は90度に曲げるくらい意識して引く 5)地面に着く方の足は伸ば
し,つま先を上げかかとから静かに着地する。蹴る方の足は指で地面を押すよ
うに 6)歩幅は普段より大きめで男性は普段歩き+5cm,女性は+3cmが目安。
実際にこのインターバル速歩を週4回以上行うことは結構大変である。継続す
るには強い意志が必要である。