「よく眠れていますか? 〜身近な方がうつ病かもしれないと思ったら〜」


八戸マナクリニック 岡田 元



1.こころの病について
 はじめになぜ,睡眠と,うつ病の話をするのかご説明いたします。
 「第2次健康はちのへ21」(計画の期間:平成25年度〜平成34年度)の9つ
の戦略の一つに,こころの健康があげられています。
 また,「健康日本21」,「健康あおもり21」にも似たようなの記載があり,
全国で,心も体も含め,健康対策がなされているのです。
 この計画に示されるように心も体もバランスが大切です。
 こころはどこにあるのか,簡単そうで難しい問題です。はっきりしたことは
分かりませんが,脳が大きく関わっていることは確かです。
 
 さて,平成10年から12年連続で,自殺する方が年間3万人を超えていました。
 平成9年まで2万5千人いなかったのに突然の増加でした。
 国内の事情もありましょうが,自殺率は先進国でも最悪です。
 失業率,景気など,様々な関連が議論されてはいますが,この増加を合理的
に説明する理由は分かっておりません。
 この12年間で毎年3万人,つまり八戸市の人口約24万人よりも多い数,自殺
でいのちを失っています。平成25年は自殺者が2万7千人程度(27,283人)に
減っていますが,交通事故でなくなる方(平成25年の警察庁の統計で4,373人)
に比べると格段に多いのです。
 おおまかに自殺をされた方のうち,動機がわかっている方の7割弱が健康問
題,更にその4割がうつ病等の気分障害を持っていることがわかっています。
またうつ病の特徴として体の症状が起こることが多いのです。特に眠れない日
が2週間以上続いている時には病院への受診を考えてもいいでしょう。自殺を
減らすためにもうつ病の早期発見がとても大切です。

2.ストレスについて
 ストレスになることはたくさんあります。
 暑さ寒さもストレスになるでしょう。
 暑さや寒さも,外気温を一定にするというのは現実的ではありません。気温
や湿度に合わせて衣服を調整していくように,精神的なストレスにもできる範
囲で対処していくと良いと思います。
 また,ジェットコースターがお好きな方がいらっしゃると思いますが,もし
ジェットコースターがゆっくり,ゆっくり,安全を確認できるようにはいって
いたら,何も楽しくないかもしれません。
 このように,精神的なストレスもある程度は乗り越えられることがお分かり
だと思います。
 そして,精神的なストレスには,様々なものがあります。ストレスをなくせ
ばいいと単純にとらえることもできません。
 では,ストレスに対処する為には,どうすればいいでしょう。
 たとえば,「気分転換が大切」「時にはしっかり休養を取ること」「規則正
しい生活(運動や,食生活も大切)を送り,できれば人と交わる時間を増やす
こと」などが良いと言われています。

3.うつ病について
 うつ病は,適切な相談で予防できるが自殺に至る可能性がある病気です。
 うつ病の原因は不明で,同じ症状をおこす病気の集まりと考えた方がいいか
もしれません。
 ただしうつ病になる前,病気の引き金になることが見つかることがある場合
もあり,この引き金がわかれば治療上の手掛かりになります。
 遺伝は,ほぼ関係がないようです。
 うつ病の主な症状は,@気分が落ち込むA今まで好きだったものにも興味が
わかなくなるなどで,これらが概ね2週間以上続き,社会生活に差し支える場
合はうつ病かもしれません。こころの病ですが実に9割以上の方に体の症状が
でますし,本人や周囲も気が付きやすい症状で睡眠の異常があります。
 症状だけ文字にすると,この程度ですが,症状のつらさは大変なものです。
 これらの症状そのものは,うつ病ではない人が感じるのと性質がとても似て
いるのです。その状態が,とても長く続き,いつまでたっても良くならないの
がうつ病の方の実感です。これは,けして怠けているからではありません。
 かかりやすさは女性が男性の2倍です。
 ただし自殺を完遂するのは男性が多くなっています。
 うつ病の治療には3つの柱が有ります。
 a.休養?b.お薬での治療?c.精神療法(主に外来での短時間の医師から
のアドバイス)です。良くなってきた段階で,家庭や職場で通常の生活をする
為のリハビリテーションを行います。これらは,別々に行われることもありま
すが,おおむね,外来のなかでお話しながら同時進行することが多いのが現状
だろうと思います。
 うつ病は「こころ」の病ですが,心は脳と関係があります。
 統計上うつ病の方の5人に2人は発症後3か月以内に回復し始めます。うつ
病の方の5人に4人は1年以内に回復し始めることがわかっています。うつ病
の場合,脳に機能的な変化が起こっているため,お薬が有効であることがわか
っていますし,うつ病は早期に治療をするとよい結果を期待できます。

4.家族や仲間の変化に気づき,それにどう対処すればいいか
 ご家族やお仲間の様子が「いつもと違う。なんか変だ」。と感じたら,本人
になにか困っていることがないか「聴く」ようにしてみましょう。このとき自
分の意見を押し付けるのは逆効果です。
人の話をただ「聞く」のではなく,意見を挟まず「聴く」のが大切です。
 その方法にはメンタルヘルス・ファーストエイドが示している方法がありま
す。
 主に傾聴ボランティアの訓練で用いる,「りはあさる」というものです。
?悩んでいる人に手助けするには
 「リ ハ ー サ ル」
「り」 (自殺の)リスク評価
「は」 判断,断定しないで「聴」く
「あ」 安心・情報を与える
「さ」 サポートを得るようにすすめる
「る」 セ「る」フヘルプ
という頭文字を集めたものです。詳細は傾聴ボランティアなどに参加していた
だくと学ぶことができます。
 周りから見て「どうも変だ」と感じるよう状態が2週間以上続くようなら,
病院の受診をすすめるといいでしょう。
 一方,ご家族や周りの方々,支える側が一生懸命になりすぎると共倒れする
ことが多いため,複数で支えることが大切です。抱え込むと家族や仲間がうつ
になってしまうのです。病院はご家族と一緒に患者さんを支さえる「支え」の
一つです。

5.医療機関を受診する際のポイント
 本人に受診の意思があれば受診をすすめましょう。
 ご家族は,受診をサポートしたり,家での様子を主治医に伝えるようになさ
るといいと思います。自殺を口にすることがあるかもしれません。その際には,
自殺しないことを約束していただいて主治医に相談しましょう。自殺しなけれ
ば良くなるのに,自殺をしたら良くなりようがありません。
 上手に,サポートしてもらえる行政や医療機関を利用し,うつ病という辛い
病気とうまくつきあっていきましょう。