「社会的ひきこもりを理解するために」


ささクリニック 笹 博



 ひきこもりは日本国内に約70万人といわれている。病気と呼んでよいかわか
らないが,ひきこもりを続けている人々を「社会的ひきこもり」と呼ぶ。その
定義は@6か月以上社会参加していないA精神疾患ではないB外出していても
対人関係がないという場合である。

 ひきこもりの約8割は何らかの精神障害によると言われている。統合失調症,
双極性気分障害,うつ病 ,強迫性障害,パニック障害,パーソナリティ障害
などの精神障害であり,医学的な治療が有力な支援となりうる。

 社会的ひきこもりの原因は多種・多様であり,原因追求は非効果的である。
ひきこもりが長期にわたっている場合は,本人や家族の努力だけで解決するこ
とは極めてまれである。社会参加にいたった事例は,家族以外の「理解ある第
三者」の介入がみられることが多い。

 ひきこもりは誰にでも起こりうる。「挫折」「正当に周囲から評価されなか
った」「周囲から受け入れられていない」と感じる体験がもとで本人が自信や
安心感を失っている状態であり,「なまけ」や「反抗」ではない。家庭環境や
子育ての仕方など,過去の家族の問題が原因とは決めつけないこと,親が自分
自身を責めないことは重要である。ひきこもりは対処の仕方次第で徐々に解決
できる問題である。

 相談・支援・治療の三段階として,@家族相談:親だけで相談機関に通うA
本人の来談:十分な信頼関係を形成していくB集団適応支援:たまり場的居場
所やデイケアなどの利用があげられる。

 両親は本人への理解と配慮を共有しておくことが大切となる。説得・議論・
叱咤激励などは有害無益。まず,本人のひきこもり状態をまるごと受容する必
要がある。つまり,安心してひきこもれるようにすることである。本人を責め,
恥をかかせ,追い詰めることでは社会参加を促すことはできない。ひきこもっ
たらどんな気持ちになるか相手の立場になってみること。同世代の人に対する
引け目と劣等感,家族に対する罪悪感,世間から取り残された不安や焦燥感を
共感的に理解することが大切である。

 本人を責めないためには,親がひきこもっている我が子について話せる場を
持つのがよい。親の会には是非とも参加してほしい。できれば両親が一緒に参
加するとよい。

 まったく会話がなくなっているとき,まず「あいさつ」から始めてみる。他
に「誘い掛け」「お願い」「相談」など誠実でわかりやすい態度をつらぬくこ
と。

 話し方で重要なことは,父親の場合「上から目線」の権威的な物言いはしな
いこと,母親は皮肉や嫌味に受け取られるような物言いはしないこと。ぎこち
なくてもいい,不自然でもいいのである。

 禁句としては「正論」「叱咤激励」「将来」の話。「本当は何がしたいの?」
という問い。「学校」の話,「仕事」の話,同世代の友人の噂話。「説得」「議
論」などがある。

 本人自身の相談・治療への誘い方であるが,まず,家族が相談に通っている
ことを本人に伝えておくこと。その後,診察当日の朝に声をかけ「一緒に行っ
てほしい」と誘ってみる。応じなければ強くは誘わずに当分は親だけ通院する。
1か月以上あけない程度に通院を継続していく。次第に本人自身の受診につな
がっていくものである。

参考書籍
1.明橋大二著「子育てハッピーアドバイス」
1万年堂出版
2.斎藤環著「ひきこもり救出マニュアル」PHP