「知っておきたい耳の病気 〜耳性めまいについて〜」


かねた内科耳鼻科医院耳鼻咽喉科 金田 裕治



 「耳の日」は,難聴と言語障害をもつ人びとの悩みを少しでも解決したいと
いう,社会福祉への願いから始められたもので,日本耳鼻咽喉科学会の提案に
より,昭和31年に制定されました。3の字が耳に似ていることから日本のみな
らず世界でも3月3日は「耳の日」とされているようです。今回は耳の日にち
なんで耳性めまい疾患を中心にお話ししました。

 耳の役割として聴覚と平衡覚(バランス)は有名ですが,その他エレベーター
や乗り物に乗ったとき,加速度・上昇下降・落下などを自覚すること。暗闇で
も音の反響から遮蔽物や空間の広がりを認識すること(空間認知)。また後方
からクラクションを鳴らされたときの方向や距離をある程度自覚するなど,耳
が2つ付いていることによるサラウンド効果について話をしました。
 めまいの本体は眼球異常振盪(眼振)で,診断をすすめる意味で最も重要な
情報です。動画を用いてメニエール病のめまい発作時の患者さんの目の動きを
供覧しました。また三半規管と方向感の関連を裏付ける話題として,クジラや
イルカが浜辺に大量に打ち上げられる事件を供覧し,ゴンドウイルカの解剖か
ら副鼻腔で繁殖した寄生虫(ナジトレーマ)が耳管を通し,中耳鼓室内から内
耳にいたるまで入り込んだという宮崎大の研究報告も紹介しました。

 一般にめまいの原因が判明した者のうち,約6割は末梢性(耳),中枢性1
割,心因性1割,その他(自律神経系,低血圧症など)といわれています(論
文により諸説あります)が,昨今生活環境の違いからストレスに由来した,い
わゆる心因性めまいの低年齢化が進んでいるように見受けられます。背後には
夜遅くまでSNSやゲームなどをしていたり,過剰な学校課題で夜更かしをした
り,睡眠や食事にいたる生活のリズムが狂うことに起因している例が少なくあ
りません。
 また,老老介護で介護する側が疲れていることに由来するめまいの訴えなど
さまざまで,現代人を取りまく社会環境や生活の変化など,めまいの背後に隠
れているものを見つめる必要があるように思えます。

 もし,目の前にめまいを訴えている人がいたら,中枢性めまいと末梢性めま
いの大まかな鑑別として,意識はしっかりしているか? 舌のもつれはないか?
 手足のしびれはないか? 顔面神経麻痺はないか? 頭痛はないか? を注
意してください。これらに異常があれば,まずは救急車を呼びましょう。
 この他,耳からくるめまいの代表として良性発作性頭位めまい症,メニエー
ル病,突発性難聴を紹介いたしました。総じて耳と心の問題は切り離すことが
できず,規則正しい生活をして,心穏やかに過ごすことが耳の病気に対して一
番の予防になると思われます。
 今回,100名以上の方にご出席いただき,また講義後の質問も多く,改めて
耳に対する関心の深さを知ることができました。