「脈の乱れが気になる時」


下長内科クリニック 三上 信久


 脈の乱れを気にして来院される患者さんのパターンは,大きく2つに分かれ,
1つは動悸を主訴にする場合と,脈が乱れるまたは脈がとぶのを主訴にする場
合とがあります。

 動悸を主訴にする場合も,実際に脈が速い場合と脈の速さが正常の場合と大
きく2つに分かれますが,一番多いのは後者の方で,その多くは「心臓神経症」
と呼ばれます。心臓神経症は心臓そのものに効く薬は不要で,精神安定剤で治
療されます。カルシウムが不足すると,すべての神経刺激が過敏に感じられ,
脈が大きく強く感じられます。この場合はカルシウムの補給で軽快していきま
す。

 実際に脈が速くなって動悸を訴える場合は,「自律神経失調症」「甲状腺機
能亢進症」「発作性頻拍症」および経口物(飲食物および薬剤)によるもの等
があります。自律神経失調症は自律訓練法などの精神訓練や自律神経調整薬ま
たは精神安定剤で治療されます。甲状腺機能亢進症は,発汗多量,体重減少お
よび手指のふるえ等を伴い,進行すると心不全にもなる事がありますが,甲状
腺ホルモンを抑える薬で完全に治ります。発作性頻拍症は,ある時突然心拍が
1分間に150回以上になる疾患で,心拍は150回以上なのに,実際に橈骨
動脈やその他の脈拍が触れる場所で脈を測ると60〜70回と心拍がずれる不
思議な現象が起こります。発作性頻拍症の発作中は心臓のポンプとしての働き
が低下しており,この間に脳梗塞等を発症しやすくなりますので,早期に頻拍
を抑える事が必要です。薬剤によるものとしては,風邪薬や気管支喘息に使用
される気管支拡張薬に動悸の副作用があり,必ず服薬している薬剤は主治医に
申告した方がいいと思います。食物では緑茶やコーヒー等カフェインを含有す
るものでは動悸が起こります。また,アルコールを飲んで自分では酔っていな
いと感じている人でも,アルコールによる身体症状である動悸が起こりますの
で注意が必要です。

 次に脈が乱れたり,脈がとぶ等の脈のリズム異常に話は移ります。この原因
となる疾患には「心房細動」「上室性期外収縮」「心室性期外収縮」等がありま
す。心房細動は,心拍数が正常なものは問題ありませんが,頻拍になると発作
性頻拍症と同じ理由で治療が必要となります。上室性期外収縮は一般的に治療
の対象となりません。心室性期外収縮は重症になると心室細動といって非常に
致死率の高い不整脈へ移行する事がありますので,その種類や程度にはよく注
意する必要があります。ホルター心電図(24時間の心拍を記録する心電図)
を使って検査する必要があります。しかし,最近問題になっている事は,心室
性期外収縮を治療する抗不整脈剤で,逆に不整脈が誘発される副作用がある事
です。心室性期外収縮で抗不整脈剤を服用している人がある日,心室細動など
で突然死した場合,疾患そのものが原因なのか抗不整脈剤の副作用によるもの
か調べる方法がありません。従って,抗不整剤の服用にあたっては適応を厳密
に判断する必要があります。西洋医学の進歩にある程度水をさす問題ですが,
大事な事は薬剤に頼らなくても済む様に普段からの養生が大切だという事です。
心室性期外収縮は動脈硬化や心臓に対する過負荷による心筋変性が原因となる
事がありますので,動脈硬化の予防の為の食事療法や心負荷を軽減する為の血
圧コントロールに気を配る必要があります。