「においは感じていますか?〜嗅覚と認知症の関連〜」


八戸市立市民病院耳鼻咽喉科 三國谷 由貴




 
認知症の患者数は年々増加しており,2012年には15%でしたが今から約40年後
の2060年には65歳以上の3人に1人が認知症に罹患している可能性があるといわ
れています。認知症の患者は日本に460万人以上いるといわれており,その原因の半
数以上がアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症ではアミロイドβが神
経細胞外に凝集・沈着し,老人斑となります。そして神経細胞内に異常なタウ蛋白が蓄
積し,神経原線維変化が起こります。
Braak仮説によりますと,アミロイドβの蓄積は認知機能低下がみられる20年以上も
前から嗅内野皮質や海馬などから始まります。その場所が嗅覚伝導路と一致するため,
認知機能がみられる前から嗅覚障害が始まるといわれています。
嗅覚障害はその障害部位によって,気道性嗅覚障害(アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎
など),嗅神経性嗅覚障害(感冒後や外傷など),中枢性嗅覚障害(加齢,神経変性疾患
など)に分けられます。耳鼻咽喉科での診察で鼻腔内に異常を認めず,嗅覚障害出現前に
感冒罹患や頭部外傷の既往がはっきりせず,画像診断でも異常を指摘できない場合は加齢
性変化や神経変性疾患によるものを考えます。
軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)とは認知症発症の前段階をさし,認
知症ではないものの,いくつかの認知機能に低下が認められる状態を示します。このMCI
の段階で患者さんをピックアップでき,適切に医療介入することによって,認知症の発症
遅延あるいは発症抑制ができると言われています。そこで認知機能が低下するまえにスク
リーニング検査として嗅覚同定能検査でMCI患者をピックアップすることができれば,早期
介入・治療できると考えて研究を進めています。
弘前大学社会医学講座が主体となって毎年行っている岩木健康増進プロジェクト健診とい
う大規模な疫学調査で,嗅覚同定能と認知機能の関連について調査しました。その結果,
嗅覚同定能が低下している人ほど,認知機能が有意に低下しているという結果が出ました。
また,嗅覚低下を自覚できていない人の方が,認知機能が低下している可能性があること
も示されました。
皆さん,日ごろ何気なく嗅いでいる「におい」ですが,においを感じづらくなってきても
自覚しない方が多いです。今回の市民健康づくり講座を聞いた方がご自身の嗅覚を少しで
も気にかけてくださるとうれしいです。この会報をお読みの耳鼻咽喉科以外の先生方も,
患者さんが「においがしないんだよな」とおっしゃったら,是非八戸市立市民病院耳鼻咽
喉科へご紹介ください。