「動脈硬化の予防について」


八戸赤十字病院 川村 明義


 今日は動脈硬化を予防して長生きしようというテーマでお話したいと思いま
す。

 現在の日本人の死因をみると第1位の悪性腫瘍は別ですが,その次には脳卒
中,心臓病といった動脈硬化を原因とする疾患が続いています。したがって動
脈硬化の進行を抑えられれば,もう少し長生きできるようになるはずです。

 動脈硬化の説明をするときに,私はよくゴムホースをたとえに使って話をす
ることにしています。動脈は心臓から体中のいろいろ大事な臓器,例えば脳味
噌であるとか腎臓であるとか心臓自身にも血液を送り込む通り道です。生まれ
たばかりの赤ちゃんの動脈というのは買ってきたばかりのゴムホースです。柔
らかくて弾力性があり少々引っ張ったり折り曲げたりしても,なんともありま
せん。ところが長年使い込んでいくうちに,だんだんホースは硬くなっていき
ます。そして硬くて丈夫になったかというと,そうではなく逆にもろくなって
きており,強く引っ張ったり折り曲げたりすればヒビが入るようになります。
ヒビが入ってしまっては使えなくなるのでホースであればパッチをあてて修理
します。これと同じようなことが人間の血管にも起きてきているのです。例え
ば高血圧のような物理的原因や病原体,さらには酸化LDLといった化学物質
などで動脈は長年にわたり傷つけられています。体の表面では傷つけばカサブ
タができますが,それと同じように血管の場合も傷ついた部分を塞ぐためにプ
ラークという名のカサブタができるのです。これを繰り返すうちに血管の内側
は,どうしても細くなり硬くもろくなってしまいます。これが動脈硬化です。

 動脈硬化が起きて血管が硬くて細くなるといろいろな病気を発症します。例
えば脳の血管に動脈硬化がおきて,その細くなった血管がつまれば脳梗塞にな
るし,また血管自体が硬くてもろくなっているため急に血圧が高くなって破裂
すれば脳出血です。心臓の血管である冠状動脈に動脈硬化がきて細くなると心
臓に血液が充分まわらなくなり,「酸素が不足していますよ」という危険信号
で胸痛がおこるようになります。これは狭心症ですが,更にその細くなった血
管がつまってしまえば心筋梗塞です。

 動脈硬化というのは10代から始まっているのですが日常生活に気をつける
事により,その進行を遅らせることが可能です。動脈硬化の三大危険因子とは
タバコ,高血圧,高脂血症です。タバコは百害あって一利なし,動脈硬化を進
めるだけでなく血管そのものを収縮させる作用もあって動脈をよりつまらせや
すくします。呼吸器疾患の原因にもなるので,すぐやめることを勧めます。高
血圧は先程もお話ししたように高い血圧によって血管が傷ついて動脈硬化が進
みますし,急激な血圧の上昇は脳出血の原因となります。高血圧を抑えるため
には,減塩,ダイエット,適度の運動や精神的ストレスの除去などがまずなさ
れるべきです。それでもだめなときには降圧薬の服薬が必要になります。コレ
ステロールはすべてが悪いわけではありません。善玉であるHDLはむしろ動
脈硬化を防ぐように働くのでHDLは増やすように,そして悪玉であるLDL
を減らすようにすれば良いわけです。そのためには適度の運動,禁煙が良いと
されアルコールは少量であればむしろHDLを増やします。また魚油の中には
EPAやDNAといった脂肪酸が含まれており,これがまた動脈硬化に対して
抑制的に働くといわれています。したがってイワシ,サバといった魚を多く食
べると動脈硬化性疾患に罹りにくくなります。

 以上述べたようなことに注意して動脈硬化を予防してください。そして寝た
きりになったりせず,長生きしていただければと思います。