「糖尿病はこうして予防する」


向井田胃腸科内科医院 向井田 英明


1.糖尿病とは
 糖尿病は,尿糖によって発見されることが多いが,実際には血液中のブドウ
糖(血糖)が増える病気である。血糖は膵臓から分泌されるインスリンにより
調節され,このインスリンが不足したり,働きが悪くなって血糖は上昇する。
 糖尿病は成因より主に1型と2型の2つに分類される。日本人の90%以上
は2型であり,これはインスリン分泌低下にインスリン抵抗性が加わって起こ
り,40歳以上,肥満者に多く,自己抗体(GAD抗体など)は陰性である。
遺伝(体質)に環境因子(食べ過ぎ,運動不足,ストレス,肥満など)が影響
し発症すると言われている。

 日本では糖尿病患者は著しく増加してきており,厚生省の発表では690万
人,糖尿病を否定できない人も含めると1,370万人,また40歳以上では
10人に1人が糖尿病と言われている。この増加の原因としては食生活の欧米
化,運動不足などが考えられている。空腹時血糖値126mg/dl以上,随
時血糖値200mg/dl以上,75g糖負荷試験2時間値200mg/dl
以上が糖尿病の診断となる。

 糖尿病は初期のうちははっきりした自覚症状がない。治療の目的は合併症を
起こさないようにすることであり,三大合併症として糖尿病網膜症,腎症,神
経症がある。網膜症の怖さは自覚症状がないまま進行することで,早期に適切
な治療をしなければ失明することがあり(後天性失明の原因疾患の第1位で年
間約3,000名以上が失明),定期的な眼科受診が必要である。腎症も人工
透析の原因疾患の第1位である。さらに健常人に比べ2〜4倍も動脈硬化性疾
患を起こしやすい。

 治療法には食事,運動,薬物療法があるが,最も基本となるものは食事療法
である。これは病気を治すための特別食ではなく減量食でもない。「過食を避
け,偏食せずに,毎日規則正しい食事をする」という「健康食」である。ポイ
ントは腹八分目,食品の種類は30種類以上,脂質は控えめに,朝食,昼食,
夕食を規則正しくとることである。体重を定期的に測定することも重要であり,
当然太れば食べ過ぎである。運動療法の注意点としては,運動を行う前には必
ずメディカルチェックを受け,可能であれば1日1万歩以上の歩行を週3回以
上行う。民間療法は経済的負担が大きいばかりで治療効果はほとんど認められ
ず行わないことが望ましい。

2.糖尿病の予防
 2型糖尿病は遺伝に環境因子が影響し発症すると言われている。遺伝は変え
ることはできないが,環境は変えることが出来る。しからば環境を変えること
で糖尿病は予防可能かということになるが,実はそのことを証明した Diabete
s Prevention Programが今年発表された。対象は25歳以上,Body Mass Inde
x 24以上のIGT(耐糖能異常)3,819名で,これらを生活習慣改善群,
メトホルミン群,プラセボ群の3群に割付け平均2.8年経過をみた。糖尿病
累積発症率は,プラセボ群29%,メトホルミン群22%,生活習慣改善群1
4%と生活習慣改善群で有意に糖尿病発症が少なかった。

 糖尿病の予防は,何も特別なことをするわけではない。食べ過ぎ,運動不足,
肥満に注意し,ストレスを避けたりうまく解消するといった健康的な生活を送
ることである。特に糖尿病の家族歴のある方は注意が必要であり,早期発見に
は健診を受けることも大切である。