「中・高年の心の変化にどう向きあうか」


中野 英樹


はじめに

 高年層の人口比率が増加し高齢化社会と言われるようになってすでに何年も
たちました。それに伴い様々な中・高年特有の精神症状がマスコミにもよく取
り上げられています。さらにリストラ,倒産などの社会情勢の不安定さを反映
して中・高年の自殺も増加しています。このような社会背景を考えると「心の
問題」を他人事とは考えずに自らも可能性がある病気として理解する必要があ
ります。そこで中・高年特有の心の変化について順を追って説明します。

心の変化の原因について

 中・高年層の心の変化の原因として年齢特有の「身体の変化」及び「環境の
変化」の二つがあります。前者としては性ホルモンのバランスが崩れることに
よる更年期障害や脳を含む身体の老化等が,後者としては,子供の自立,嫁・
姑問題,介護の問題,リストラ,退職,配偶者・親・友人などの親しい人の死
別等があげられます。これらがストレス(厳密に言えばストレッサー)となり
精神状態に影響を与え,場合によってはうつ病・うつ状態に陥ることがありま
す。また高年層ほど,このようなストレスに対して耐性が弱いようです。

 またアルツハイマー病や脳血管性障害による痴呆による心の変化もあります
が,今回は紙面の都合上省略させていただきます。

心の変化の特徴

 うつ病・うつ状態の場合は憂鬱な気分,意欲低下,不眠,食欲低下,喪失感,
あせり,いらいら,不安,緊張,集中力・判断力の低下,様々な自律神経症状
(頭痛,のぼせ,ほてり,動悸,異常な発汗,手足の冷え……)等がある程度
継続します。もちろんすべてが同じ人に出るわけではなく,一部分のみの症状
の人もいます。また,このような状態が悪化すると“生きていく価値がない”
と考え,自殺を実行しようとすることもあります。

心の変化に対しての対処について

 まず日頃から様々なストレスに耐えられるような心の耐性を作っておくこと
が望ましいです。簡単にできることを箇条書きすると,1)日頃から相談でき
る人を見つけておく,2)規則正しい生活をする,3)生活習慣にウォーキン
グなど簡単な運動を取り入れる,4)ポジティブシンキングを心がける,5)
自分なりのストレス発散方法を確立しておく,等があげられます。しかし残念
ながら,うつ病・うつ状態へ陥ってしまった場合には,休養をとり負荷を減ら
し早めに専門家に診察してもらうことが重要です。薬物療法(安定剤,抗うつ
剤,睡眠薬)やカウンセリングにより,速やかにうつ病・うつ状態が改善する
こともあります。また軽々しくはげましたり,気分転換といって無理に連れ出
したりするのは症状を悪化させることがあります。その他,うつ病は極期より
回復期のほうが,自殺の危険性が高い場合があり注意が必要です。

終わりに

 精神症状は身体的な症状に比べて,自ら気づくことよりも,周囲の人が気づ
くことが多いものです。当科でも中・高年層は若年層に比べて,本人が自ら訴
えてくるよりも家族が不調に気づき,勧められて相談に来る件数のほうが多い
ようです。近年,うつ病は「心のカゼ」と呼ばれ社会的な認知度が高まってい
ますが,心の問題はまだまだデリケートな問題でもあり,家庭で気軽に話題に
のぼり難いのが現状のようです。
 心の問題の予防及び早期発見・早期治療には,このような話題が家族の中で
も十分に話し合えるような日頃からの環境作りが大切です。