鈴木内科医院 鈴木 竹一
１．TC と LDLC
以前は，高脂血症については TC を中心にやってきたが，LDLC を実測でき
るようになり TC は殆ど測定しなくなった。その理由は次の通りである。
１）コレステロールは蛋白と結合しリポ蛋白として血中を流れているが，結合
する蛋白により HDLC，VLDLC，LDLC となり，TC はその総称である。
２）TC は動脈硬化症の危険因子である LDLC と，全く逆の負の危険因子であ
る HDLC をともに測定した値である。
３）動脈硬化に直接関連する LDLC を実測した方が，冠動脈疾患（狭心症，心
筋梗塞）の危険因子をより適格に知り得る。
４）TC と LDLC は相関するが，同じ動きはしない。
５）治療目標の設定という立場からの重要度はa,LDLC b,TG c,HDLC の順と考
えられている。TC は不要である。
６）TC にはかなりの日差変動がある。
患者はまだまだ TC 値の高低を問題にするので，それは次に述べる計算値で
答えている。
２．Friedewald の式から分かること
LDLC ＝ TC − HDLC − TG × n
この式から
TC ＝ LDLC ＋ HDLC ＋ TG × n
（ n は TG ＜ ４００mg/dlで０．２，４００mg/dl以上では０．１６。しか
し後者は不正確である。VLDLC は TG から算出するが，TG４００mg/dl以上は
カイロミクロンも増えている）
血中の TG は空腹時では肝で合成される VLDL 由来が主であり，食後はカイ
ロミクロン由来が多くなる。それで採血は早朝空腹時に実施する。しかし，前
夜大酒していると，朝絶食の採血でも TG は高値となる。このように TGは生
理的にも不安定で，かつ食事内容や量によってかなり影響される。それに反し，
HDLC の日差変動は少ない。しかし，HDLC 高値の人では TC もまた高くなるの
は上式によって明らかである。このように，LDLC があまり高値でなくても，
TC は高くなることが多い。例えば，LDLC１３２mg/dl（以下単位略），HDLC１
０４，TG ９２の時の TC 計算値は２５４である。また，LDLC １３２，HDLC
７４，TG２００の時の TC も２４６とやはり高値である。
このように，LDLC の測定値は TC から換算するよりもかなり低くなる。逆
に言うと，LDLC よりも TC 高値のものが多い。もっとも LDLC 高値のために
TC もまた高値となっている人も当然いる。このように，ただ TC 高値という
だけですぐ薬物療法をというのは考えものである。
３．危険因子数と内容による薬物療法の選択
２００２年の日本動脈硬化学会のガイドラインでは，実際の治療に用いる
「患者のカテゴリー」別の主要危険因子は次のように規定している。
冠動脈疾患のない人では，LDLC 値以外の主要危険因子は１加齢（男性≧４
５歳，女性≧５５歳）２高血圧３糖尿病４喫煙５冠動脈疾患の家族歴６低 HD
LC 血症（＜４０mg/dl）としている。危険因子が多いほど脂質管理目標値を低
く設定する。実際にはまず食事などのライフスタイルの改善から始めることは
言うまでもない。
薬物療法の対象は私の場合，危険因子の３５をそれぞれ２点と評価し，他は
１点とする。計３点以上に投薬する。例えば１＋３，１＋５，１＋２＋４，１
＋２＋６などの組合わせとする。ほかに７として，知人が心筋梗塞となり，心
配のあまり服薬を希望する人も３５と同じく２点を与える。しかし，単に更年
期による高 LDLC 血症と思われ，ほかに危険因子のない場合には極端な高値の
人以外は薬を使わない。
