「増えてきた大腸がん」


高橋医院 高橋 秀禎


 これまで日本においては,がんの死亡率のトップは胃がんでしたが,最近そ
の死亡数も死亡率も減少傾向にあります。これに代わって,消化器系のがんの
中で増加傾向の著しいのが大腸がん(結腸がんと直腸がん)です。

 大腸がんが増えている原因としてよくいわれているのが,日本人の食生活の
欧米化です。つまり,食物繊維の摂取が少なくなり,脂肪を多く含む肉類の摂
取が増加傾向にあることが挙げられます。たとえば,精白米のように食品を精
製化することは,主に味をよくするために行われるのですが,その過程で食物
繊維が失われてしまうことが多いのです。

 大腸がんは比較的おとなしい性質のがんで,胃がんや肺がんなどに比べると
成長が遅く,リンパ節転移も少ないので,早期発見によりほぼ100%治りま
す。

 大腸がんは,血便,下腹部痛,便通の異常,便が細くなるなどの自覚症状が
ありますが,これらはある程度進行したがんの場合です。大腸がんの早期には
便に血が混じる程度,あるいは目にみえない微量の出血(潜血)が生じる程度
がほとんどです。

 自覚症状のないうちに大腸がんを見つけるために,便潜血反応検査が行われ
ます。最近の検査は,人の血液にだけ反応する免疫学的方法で行われ,わずか
な潜血でも検出できるようになっています。

 便潜血反応が陽性であった人は,精密検査が必要になります。陰性であって
も,がんが小さければ潜血が便のごく一部にしか付着せず,血の混じっていな
い部分を検査した場合や,検査した日はたまたま出血しなかった場合もありま
す。ですから,年に一度は定期的にこの検査を受けることが大切です。

 便潜血検査で陽性反応が出て精密検査が必要と言われても,必ずしも大腸が
んとは限りません。大部分は痔であり,他は大腸ポリープや潰瘍性大腸炎など
で,大腸がんがみつかるのは5%くらいです。この5%の大腸がんを治る段階
で発見するのが重要なことですから,必ず精密検査を受けましょう。痔からの
出血と思って放っておいたために,がんが進行してしまったということになら
ないように(痔と決めつけないことです)。精密検査を受けなければ,せっか
く早期発見のために検診を受けても,意味がなくなってしまいます。

 大腸がんが疑われる場合にはまず直腸指診が行われます。これはゴム手袋を
して肛門に指を入れ,直腸に触れて診断します。これで,直腸の下2/3のが
んは診断できます。次に注腸X線検査または大腸内視鏡検査が行われます。

 ポリープ型の早期がんは内視鏡を使って切除することができ,これを内視鏡
的ポリペクトミーといいます。平坦型や陥凹型の早期がんは,内視鏡的粘膜切
除術という方法で切除することができます。

 切除した病変は外に取り出し,その組織を顕微鏡で詳しく調べます。がんが
粘膜内に浅くとどまっていて内視鏡で完全に取りきれていれば,これで治療が
終了します。このような内視鏡による治療技術の開発は,早期がんの治療に大
きな成果をあげています。

 最後に大腸がん予防の10か条を示します。
1.動物性脂肪や肉を食べすぎない。
2.食物繊維を十分にとる。
3.ビタミンを十分にとる。
4.便秘をしないように,規則正しい便通をこころがける。
5.過労,ストレス,暴飲暴食をさける。
6.自覚症状がなくても年に1回は検診を。
7.ポリープがみつかったら放置しない。
8.血縁者にがん患者のいる人は注意。
9.血便,便秘などの症状のある人は要注意
10.大腸以外の臓器にがんのあった人は要注意。