「メタボリック・シンドロームにご注意」


八戸市総合健診センター 虻川 輝夫


 「健康日本21」を立ち上げて3年たつが,肥満,糖尿病は増えて運動量は減
少していた。そこで,国はメタボリック・シンドロームの概念を取り入れる方
策に転換した。動脈硬化性疾患は死を免れても後遺症が残ったり,脳血管性認
知症や寝たきりの原因でもある。受療率をみても入院は脳卒中,心臓病が多く,
外来は高血圧,糖尿病が上位を占めている。高血圧,糖尿病,高脂血症は自覚
症状がないため放置され易く,重なり易いという特徴がある。メタボリック・
シンドロームは内臓蓄積型肥満に軽度の代謝異常,正常高値血圧が重積した病
態で連鎖して流れている。日本人はモンゴル系民族なので検約遺伝子が欧米人
に比して約3倍あり飢餓に強く,飽食と運動不足で肥満になり易い。肥満にな
るとインスリン抵抗性が早期に出現して糖尿病,高血圧に移行する。欧米型生
活習慣は体質的に日本人には馴染まない。

 脳卒中,心筋梗塞は午前中特に早朝に発症することが多く,早朝の血圧値は
重要な情報である。そのためには家庭血圧計は必需品である。測る時は坐位,
右腕で朝と寝る前の2回測定し記録しておくこと。

 エネルギー摂取量は50年前と変わっていないがエネルギー源が米から脂肪食
へとシフトし,自動車の販売台数の増加とともに肥満,糖尿病が増えた。糖尿
病は予備軍を含めると1,600万人ともいわれ国民病である。日本人の糖尿病の
特徴として,LDLコレステロールが高くHDLコレステロールが低く高血圧を合併
している人が多い。肥満は,量的肥満とメタボリック・シンドロームの最上流
に位置する質的肥満に分類される。内臓の脂肪細胞からはいろいろなアディポ
サイトカインが分泌され高血圧や代謝異常の原因となるばかりでなく,抗動脈
硬化作用のあるアディポネクチンの分泌が減少する。内臓脂肪の蓄積が高血圧,

耐糖能異常,脂質異常をきたす共通の基盤である。中性脂肪が増えるとHDLコ
レステロールが減少し動脈硬化は促進される。また,血圧を下げる一般療法と
しては体重を減少させることが最も効果的である。米の消費量の減少と糖尿病
の増加が相関していることは事実であり,主食をご飯にしている人はコレステ
ロール値が高くない人が多いことも事実である。カリウムを多く含む食品をと
ると血圧は上がりにくくなる。多くの野菜を組み合わせて食べることを勧める。
果物にもカリウムは多く含まれている。青魚やサーモンは中性脂肪を下げて,
HDLコレステロールを上げるので優良食品である。蛋白質も大豆などの植物性
蛋白が体によいといわれている。

 老化のスピードを遅らせるアンチエイジング医学が注目されている。体の細
胞をサビさせない抗酸化作用のある食材を紹介する。ただし,食べ過ぎると害
になることも注意した。友人をもつと体重を減らすほど血圧は下がることが科
学的に証明された。多くの人と接して,楽しい笑いを日常生活にとり入れるこ
とが老化のスピードを遅らせることは間違いない。ご飯は魚や野菜とよく合う
し,咬むこともできる。日本食でメタボリック・シンドロームを予防しようと
いうのが今日の結語である。その前に,健診を受けて自分の状態を把握し,も
し,血圧,糖,脂質に異常があって肥満であれば,減量によって異常は改善す
るというのがメタボリック・シンドロームの基本的考え方である。

 食行動10か条と動脈硬化学会のガイドラインを紹介した。メタボリック・シ
ンドロームの概念と診断基準と腹囲の測り方を説明した。頸動脈エコーの有用
性を紹介した。