「増えている緑内障にご注意!」


松橋眼科クリニック 松橋 英昭


20人に1人が緑内障!
 最近,多治見市で行われた疫学調査によると,40歳以上の人口の5%,すな
わち20人に1人が緑内障であると報告されています。また平成14年と16年に身
体障害者に認定された,いわゆる成人中途失明者の失明原因のうち,29%と最
も多かったのが緑内障です。私たちの健康にとって,緑内障がいかに脅威とな
っているかを示す数字だと思います。しかし緑内障の症状はかなり進行してか
らでないと自覚されにくいため,多くの患者さんが診断されることなく埋もれ
ている恐れがあります。

緑内障にもタイプがある
 緑内障の最も重要な原因は眼圧の上昇です。眼圧上昇の原因が他に求められ
ない『原発緑内障』,他の疾患が原因となって眼圧上昇をきたす『続発緑内障』,
そして先天異常による『発達緑内障』と,緑内障には3つの型があります。さ
らに原発緑内障は,眼内の水の流出路である隅角が開いている『開放隅角緑内
障』と,隅角が狭くなっている『閉塞隅角緑内障』に大別されます。開放隅角
緑内障は進行がゆるやかで自覚症状に乏しいのが特徴です。眼痛や視力低下な
どの急性発作をおこすのは閉塞隅角緑内障の方ですが,緑内障全体の20%しか
ありません。ちなみに,抗コリン作用薬が禁忌となるのは未治療の閉塞隅角緑
内障だけですので,他科の医師,薬剤師の方々にもご承知いただきたいと思い
ます。

眼圧が正常なのに緑内障?
 原発開放隅角緑内障の中で,眼圧が正常なのに緑内障性視神経障害をきたす
ものを『正常眼圧緑内障』と呼びます。日本人にはこのタイプが非常に多く,
前述の多治見スタディでは,全緑内障の約60%が正常眼圧緑内障でした。一方,
眼圧が高くても視神経が障害されない『高眼圧症』の人もいます。つまり,緑
内障の発症と進行には眼圧上昇だけではなく,循環障害やその他の未知の要因
が関わっており,眼圧に対する視神経の脆弱性にはかなり個人差があると考え
られています。

眼底検査の重要性
 緑内障による視神経障害は不可逆ですから,早期発見,早期治療が大事なの
ですが,そのためにはどうすれば良いのでしょう?答えは「40歳以上になった
ら,症状がなくても健診で眼底検査を受けること」です。眼底検査で緑内障に
特徴的な視神経の変化を見つけることが,早期発見に最も有効です。さらに視
野検査で異常があれば診断は確定ですが,視野異常が明らかになる頃にはすで
に視神経線維の半分以上が障害されていると言われています。

 ところで,来年から実施される特定健診には眼底検査が必須項目に含まれて
いません。緑内障はいわゆる生活習慣病ではありませんから,特定健診の標的
から外された格好です。しかし前述のとおり非常に有病率が高く,また失明原
因のトップとなっている緑内障を無視してよいのでしょうか。今後,健診に眼
底検査を加えるよう,自治体に強く訴えるべきと思います。

治療目標は現状維持
 よく患者さん方から「緑内障は治らないんでしょう」と言われます。たしか
に緑内障で細胞死にいたった視神経は回復不能です。ですから治療の目標は現
状維持ですが,そのためには薬や手術によって眼圧を下げることが唯一の治療
法です。たとえ正常眼圧緑内障でも眼圧をさらに下げることで視野障害の進行
を遅らせることができます。しかし良好なコントロールを長期間維持すること
は必ずしも容易ではありません。今後,眼圧下降以外の治療法が開発されるこ
とを期待しています。