「認知症を正しく知ろう」


東八戸病院 秋山 弘之


 古い言い方ですが,二昔程前まではいわゆる「ボケ症状」が現れても,甚だ
失礼な言い方ですが家族は治らないこと,また世間体も気にして止むを得ず放
置した状態にしてしまうこともしばしばありました。

 また,精神科を受診しても実際問題として認知症患者の入院可能な専門病棟
がなく,受入れが困難でありました。

 精神科疾患の中でも進行性の難治疾患でありながら見捨てられていた時期が
あったことは否めません。

 しかし,マスメディアでレーガン元米国大統領を代表とする著名人の発症,
ドラマや映画の題材に取りあげられ,最近では認知症関連のトラブル(交通事
故,犯罪等)が社会問題化されたことで認知症がようやく一般の人々に理解さ
れ,特に「アルツハイマー型認知症」は1つの独立した疾患とみなされ,医療
機関での受診のハードルが明らかに下がってきました。

 国も高齢化社会を迎え,老人性認知症対策の一環として,認知症専門治療病
棟,認知症ディケア施設,老人性認知症疾患センター等を整備し,介護保険制
度をスタートさせたことによりグループホーム等の社会的資源はかなり充実し
ましたが,医療としては予想に反する方向に向かってしまいました。

 「認知症は介護に任せておけば全て解決」という流れが出来たことです。

 もちろん介護領域の皆様の並々ならぬ努力の成果は周知の如くであります。

 最近,ようやく認知症治療は医療,介護単独では限界があることを双方が認
め合う気運が高まってまいりました。

 認知症は,「単なるもの忘れではなく,れっきとした病気」(難治性の進行
疾患)であります。

 「脳や身体の疾患を原因として,記憶・判断力などの障害が起こり,普通の
社会生活が送れなくなった状態」と定義され,様々な症状によって毎日の生活
が困難となった状態という点が大事なのです。

 まずは医療機関で精査,診断,治療または治療方針を決定し,他の認知症関
連職,施設,家族会,家族等と連携し,患者様により適した治療,介護,援助
等を行うことが重要です。

 ここからは認知症の主な原因疾患,具体的な症状,鑑別疾患,早期発見の大
切さ,治療,予防等を簡単に述べます。1原因疾患は多岐にわたりますが,も
っとも多いのがアルツハイマー型認知症で認知症の半数以上を占め,次に血管
性認知症でありこの二つで認知症の約8割を占めます。

 「第3の認知症」と言われているのが「レビー小体型認知症」であり,若年
性認知症の代表的な疾患がピック病(前頭側頭型認知症)です。2認知症の症
状は中核症状(中心となる症状)とそれによって起こる周辺症状とに分けられ
ます。

 中核症状は記憶障害,判断力低下,見当識障害,言語障害(失語),失認,
失行,実行機能障害等の認知機能が障害された症状です。

 周辺症状には精神症状や行動障害(問題行動)が含まれます。不安,攻撃的
行動,幻覚,妄想,睡眠障害,徘徊,介護への抵抗,食行動異常,抑うつ,依
存等の症状が見られます。

 入院治療のきっかけとなる症状はほとんどこの周辺症状に起因することが多
く,家族の精神的,身体的負担は想像を絶するものがあります。3認知症と間
違われやすい状態は,加齢に伴う生理的なもの忘れ,せん妄,うつ病,薬物に
よる意識変容等で,特に日々の診療ではうつ病との鑑別が難しい症例も多く慎
重な診断が必要となります。4早期発見が大切なのは,進行性の疾患であるだ
けでなく,中には治療可能な認知症があるためです。

 一部の脳腫瘍,慢性硬膜下血腫,正常圧水頭症,脳炎,ビタミン不足,甲状
腺機能低下症等で早期に見つけることにより適切な治療を行うと症状が治った
り,症状を軽くすることが可能です。5治療は薬物療法と非薬物療法のみなら
ず,家族や介護者とのサポート体制が必要です。薬物療法は中核症状と周辺症
状で大きく二つに分けられます。

 中核症状に対しては日本で使用されているのはコリンエステラーゼ阻害剤の
塩酸ドネペジルです。

 周辺症状には対症療法として症状に合わせて抗精神病薬や抗うつ薬,睡眠導
入剤,脳循環・代謝治療薬等を投与します。加えて高齢者は感染,便秘,脱水
症状等を起こしやすく,周辺症状の悪化ともなるため見逃せない症状であり,
十分な補液だけで精神状態がよくなることがあります。

 非薬物療法は心理社会的な介入が中心となります。

 1.リアリティーオリエンテーション2.回想法3.音楽療法4.その他として治療
的レクリエーション,絵画療法,園芸療法,ペット療法等が有名です。6認知
症予防は今後の急速な高齢化社会で我々専門医が一番力をいれなければならな
い仕事です。

 例えばバランスのとれた食生活,脳の活性化トレーニング,一般的な認知症
予防,認知リハビリテーション等が挙げられます。

 今回は紙面の都合上具体的な予防法の紹介は省略させていただきました。