「砕石場着陸・上」

今明秀=八戸市立市民病院救命救急センター所長

 前夜の雨で湿度が上がっています。天気は小雨です。その日は、出動はない
のかなと思っていた午後3時54分にドクターヘリ出動要請が来ました。

 砕石場で労災事故が起こりました。ドクターヘリは、出動要請を受けてから
3分後に離陸しました。目的地は、八戸市郊外の山間にある砕石場です。車で
病院から30分かかる場所です。

 ドクターヘリは離陸して5分で現場上空に到達しました。川の近くの広い砕
石場に、赤い消防車と白い救急車が止まっています。遠くからパトカーが近づ
いてくるのも見えます。砕石場関係の会社の車が1台現場に向かっています。
救急車近くには作業トラックが止まっています。

 ドクターヘリには機長と整備士が前方席に乗っています。後ろの席には医師
2名と看護師1名が乗ります。それから患者用の寝台が備えられています。機
内では、自由にヘッドホンとマイクで会話ができます。消防や病院、飛行場と
は無線で話ができます。整備士は無線で消防と交信し、着陸地点を打ち合わせ
しました。現場近くには広場がありますが、傾斜があります。整備士は機体の
安全を確保できる、そこから100メートルほど離れた平らな砂利の所を着陸
場所に選びました。

 そのことが眼下の消防に伝わったのか、止まっていた消防車は前進しだしま
した。ドクターヘリは高度を落とします。途中でいったん高度を保ち、もう一
度、着陸目的地に電線や障害物がないことを確認します。整備士はドアから体
を半分乗り出し、機体の腹の下の着陸地点の安全を再度目で見て確認します。
その日は運がいいです。雨のせいで砂に湿気があり、埃と煙がわきません。

 ドクターヘリが着陸すると、すぐにエンジンが切られます。惰性で回る上部
のプロペラに注意しながら、私たちは頭を下げて機外に出ました。すぐに消防
隊が案内してくれます。患者は、砕石場の作業場の急階段を下りた場所にいる
というのです。

 現場で医療活動する場合は、消防隊と同じようにヘルメットと安全靴、つな
ぎ服を着用します。急な階段を下りて、砂埃が舞っている作業部屋に入ります。
裸電球と日光だけでは薄暗い室内です。大型のベルトコンベヤーの下には血痕
があります。その左先に、救急隊と仕事仲間に取り囲まれて男性が横たわって
います。



「提供・今明秀医師」