「砕石場着陸・下」

今明秀=八戸市立市民病院救命救急センター所長

 救急隊長は大声で「こっちだ」と叫びます。このような作業現場は危険に満
ちています。天井や周りの安全を注意深く観察しながら、ベルトコンベヤーの
先に横たわる男性に私たちはゆっくりと近づきます。

 私たちは彼の異常に一目で気付きました。右腕がありません。顔は苦痛に満
ち、脂汗をかいています。声は弱く、呼吸は速いです。その近くに、数分前ま
で彼の一部分だった右腕がビニール袋に詰められ、氷で冷やされています。床
には、ベルトコンベヤーからつながる血痕があります。

 患者の左腕で測った脈は弱く速い。「ショックだ! 酸素は続けてください。
左手から点滴を入れます。太い針で緊急輸液を全速力で開始します」。この瞬
間、砂埃まみれの作業現場が病院になります。怪我(けが)が腕だけか、胸に
もあるのかを超音波と聴診器、酸素飽和度計で調べます。痛み止めの麻薬を注
射します。

 私は立ち上がり、八戸市立市民病院救命救急センターの専用電話コードブルー
を鳴らします。

 「砕石場の患者。ショック状態。右上腕切断面は止血済み。酸素投与と輸液
全開で運びます。手術室の用意をお願いします」

 それからが大変です。急なはしご階段を患者を抱えて上らなければなりませ
ん。担架に載せられた患者は、みんなにお神輿(みこし)のように支えられ、
階段を一段一段上りました。途中の直角に曲がる所では何回も切り返して、前
後左右8人の男で支えながらの行進です。この作業部屋からドクターヘリに行
き着くまで10分かかりました。

 ようやく患者はドクターヘリに収容されました。この後は、洗練された近代
的救急システムが待っています。現場を離陸して、わずか4分で、オレンジ色
の病院ヘリポートに到着です。

 救急室では、整形外科医師、救急医師、放射線技師、看護師、麻酔科医師の
診察と治療が開始されました。素早い判断と連携で、患者は手術室に運ばれま
した。その7時間半後、彼の右腕は再び元の位置にくっつきました。

 ショック状態の治療、素早い搬送、そして正確な手術。ドクターヘリとその
仲間たちの連携の勝利です。

「徳だヘリ」



「提供・今明秀医師」