「受動喫煙の健康被害」

久芳康朗=くば小児科クリニック院長、八戸市在住

 飲食店を含む公共的施設を分煙ではなく全面禁煙にすべきという厚生労働省
の通知に対して、あるメディアに「えー!?公共空間を全面禁煙。禁酒法なら
ぬ禁煙法成立も近い?」などという世界の医学的常識を全く踏まえていない記
事が載りましたが、この程度の認識が今の日本の実態なのかもしれません。

 皆さんはレストランで「こちらはアスベスト席、こちらは禁アスベスト席で
すが仕切りがないので流れてきます」と案内されたらそのお店を利用しますか。
現実にはそれと全く同じことが起きています。それが受動喫煙です。

 受動喫煙による健康被害は医学的に確定され、受動喫煙にはどこまでなら安
全というレベルはなく、分煙では被害から守ることはできない。これは米国政
府やWHOなどが数多くの調査研究を元に導き出した結論です。

 前回も触れたタバコ規制枠組み条約の受動喫煙防止ガイドラインでも、「2
010年2月までに罰則のある法律によって屋内全面禁煙を実現すること」が、
07年に日本を含む加盟国の全会一致で決定しました。

 その期限である本年2月までに、欧米先進国のみならずタイやトルコ、ブラ
ジルなど世界の数十ヶ国が、罰則のある法律や条例によって屋内全面禁煙を実
現しました。その結果として、驚くべき事実が判明したのです。

 ヨーロッパやアメリカの各地から、法律制定後に心臓発作による救急患者が
10〜40%も減少したという報告が相次ぎました。これは通常の予防医学の
進歩では説明できない数字であり、それまで受動喫煙によってそれだけ多くの
人が心筋梗塞で入院したり亡くなったりしていたことが確定的と判断されまし
た。

 ところが、日本で期限末に出てきたのは罰則のある法律ではなく、実効性の
乏しい努力義務を課した局長通知一通でした。これでは利用者や労働者の命を
守ることはできません。