「被災地医療:下」

 4月9日、私と当院の小澤先生、衛生士2人、技工士1人が被災地・宮古市
に向け、出動しました。目的は診療室の形成です。初日の段階ではまだ、緊急
的な要素が強かった診療場所を、午前中に技工室までそろえた仮設診療室に作
り替えました。午後からは通常診療である義歯作成などに取りかかることがで
きました。

 当初の予定では(被害の少なかった)歯科医院までバスで40分かけて行っ
て、新義歯を作るしか方法がなかったのですが、これはつまり、足腰の弱い方
や移動しにくい方は新義歯をあきらめてください、ということでもあったわけ
です。

 そうではない方も震災から1カ月、我慢に我慢を重ねてこられたわけで、足
を運んだ患者さんは皆さん大喜びです。型どりしてから小一時間ほど待っても
らい、2回目の処置が終わると、次回1週間後に出来上がり、という”超特急”
です。

 翌10日も、私たちに加え、盛岡から医師2人の計8人布陣。青森県保険医
協会からは患者さんの搬送やサポートの事務局2人、衛生士4人、技工士3人
が参加し、大きなチームとなりました。

 是川歯科クリニックの薄木先生から借りているポータブルレントゲン撮影機
器も威力を発揮しました。中古の無影灯付きユニットを手に入れ、当たり前の
診療室がどんどん形作られ、仮診療所の施設サポートが実現しました。

 そして、通常の診療が進んでいきます。30人の患者さんを8人の医師が3
ユニットで治療し、津波で義歯を失った車いすの患者さんまでサポート。「義
歯を作るのはもう無理だと思っていた」「本当に助かる」、こんな言葉ばかり
聞こえてきました。

 緊急事態に巻き込まれた絶望のふちにある人を真に救うのは、「法律」や「ル
ール」そして「プライド」や「立場」などではありません。「行為」そのもの
なのだと、私たちは考えています。

 現地からフェードアウトする際、地元歯科医師の手に、仕事を確実にバトン
タッチすることが、私たちの最後の使命だと思っています。