肺の生活習慣病「COPD」について学ぼう!
はやし呼吸器・総合内科クリニック 林 彰仁
聴衆は当初多くて50人くらいと聞いていたが,少なくとも100人以上いて後
ろの方は立ち見となっていた。一般の人は通常の生活習慣病としての「高血圧
」や「糖尿病」のことはある程度知っていても,『肺の生活習慣病』って何?
という感じで,少し関心が高かったのかと推測した。いずれにせよスクリーン
も前の方に大きなものが1枚あるだけで,後ろの方は見えなかったと思われ,
スライドの文字をもう少し大きく作ればよかったと少し後悔した。
さて「COPD」という病名は,日本語では「慢性閉塞性肺疾患」といい,個人
的には日本語でも英語でも馴染みがなく覚えにくいことが,認識の低さに繋が
っていると思っている。以前は病理学的診断名に基づいた「肺気腫」,症候学
的診断名に基づいた「慢性気管支炎」と呼ばれていたが,その後の種々の研究
結果より,肺胞破壊に伴う肺弾性収縮力の低下が,スパイロメトリーに代表さ
れる呼吸生理学的指標の1秒率で評価される気流閉塞の主因であることが明ら
かになり,分泌腺の増生との相関に乏しいこと,「慢性気管支炎」という診断
名は「慢性閉塞性肺疾患」の本態である気流閉塞には重大な影響を与えていな
いなどの理由で,「COPD」という名称に統一された経緯がある。いずれにせよ
原因の9割くらいが喫煙で,多少語弊を恐れずに周知させるなら「たばこ病」
にしたほうが分かりやすい。そしてそれが今回の「肺の生活習慣病」というイ
メージにより近いのではないかと思ったが,大気汚染などタバコ以外の原因で
もなる可能性があるため,やはり正確性を期すためには仕方ないだろう。
診断に関しては,典型的な労作時呼吸困難や慢性の咳・痰などがあり,肺機
能検査を行い気管支拡張薬吸入後の1秒率が70%未満で,他の肺疾患の除外な
どあれば診断可能。
治療に関しては,タバコで肺が壊れていく病気なので禁煙が一番大事だが,
薬物療法としては長時間作動型抗コリン薬や長時間作動型ベータ2刺激薬など
の気管支拡張薬の吸入が第一選択である。喘息の合併もまれではないため,こ
れら薬剤に加え吸入ステロイドを追加することもあり,更に必要に応じてテオ
フィリン製剤や去痰薬を投与する。
以上のような内容を講演では簡単に説明し,途中で飽きないように簡単なク
イズ(喫煙でどのくらい寿命が縮まるか?など)も交えながら話したが,病態
を含め上記は主に医師が主導し考えることで,一般の方は非薬物療法,特に身
体活動性向上と食事療法に力を入れるように話した。身体活動性については,
肺は主にガス交換する場所であり,人間は足から老いるのでウォーキングなど
がよいが,それができなくてもなるべく日常でこまめに動くこと,これにより
増悪の減少や生命予後が改善することなどを話した。食事療法については,体
重減少も予後不良で,腎不全などの食事制限がなければ,高カロリー・高蛋白
食が基本であるが,患者さんの肺は過膨張していることが多く,一度に通常よ
り多く食べると腹部からの圧排で苦しくなるため,4から6回に分食して摂る
こと,また分岐鎖アミノ酸のバリン,ロイシン,イソロイシンなどが多く含ま
れる,マグロやカツオなどの魚や牛肉,卵,大豆,チーズなど摂るように話し
,その他骨粗鬆症の合併もあるためビタミンDの摂取と日光浴を勧めた。この
段階で既に予定時間を15分過ぎて,次セッションもあったため結局質疑時間も
省略となった。つい何でも話そうとする自分の欠点が出たことを反省点として
終了とし,次回に活かしたい。